シャンデリアのある家なんて本当にあるんだな、あれが今落ちてきたらたまんないな、彼がそんなことを考えつつ、もう一口紅茶を含んだ時だった。
「ところでアマミヤくんの字はどう書くんだい?」と、児玉がにこやかに訊いてきた。
熱めの紅茶がじんわりと彼の喉を焼いたせいで、しばらく沈黙が流れる。
「天の宮殿で、天宮です」
信太郎は答えた。
「いいねぇ、その喩え。気に入った。天の宮殿か…なんだか君にぴったりだね。私はてっきり雨の宮とばかり思ってたよ」
「本当に」
夫人も綾乃にそっくりな笑みを浮かべて頷く。
「来てもらって早速なんだが、来月の第2土曜日の夜はあいてるかな?」
「はい、何も予定はありません」
「もしよかったら手伝ってほしいことがあるんだよ」
「お父さん!いきなり失礼よ!」
突然、綾乃が起こったように口を挟む。
「ああ、俺は大丈夫。本当に予定ないから」
そんな彼女をなだめるように、信太郎はえくぼを作った。
「実はこの地区の小中学生を対象に、月1回の天体観測のサークル活動をしてるんだよ。その主催者が私でね。参加者が増えて喜ばしいことなんだが、それを教える側の人間が足りなくてね。ゼミの学生もかり出すんだが、追っつかないんだよ。もしよかったら手伝ってもらえないかな?」
「天宮くん、お父さんの言うことなんて気にしないで。言いだしっぺのくせに後先考えずに参加者募って、挙句の果てに手が回らなくなって…自業自得なんだから」
膨れっ面の綾乃の言葉に信太郎は笑うと、紅茶を一口飲んでテーブルにカップを置いた。
「こんな僕でよろしければ、喜んで」
「天宮くん!」
どうして引き受けるの、そう言いたげな顔で綾乃が見つめてくるのがわかった。
「君ならそう言ってくれると思ったよ」
安堵の溜息をつき、児玉はソファーに身を委ねると、「どうだ」と言わんばかりのいたずらっ子のような顔で娘を見る。


