「ま、まぁとにかく遥。なっちゃんだって他に好きな人がいたらその人と結婚するかもしれないんだし」
「えー!じゃあシンタローと?」
ぎょっと二人はまた目をむく。
幼い子は残酷だ。
悪気がないだけ余計に。
それに勘が鋭いというのか、見たまま感じたままを口にしているだけなのかわからないが、とにかくその言葉は夏海を激しく動揺させ、雅樹を困惑させたのは間違いない。
「なっ、なに言ってるの、遥ちゃんはー。誰があんなバカ太郎と…」
夏海は再びニット帽を深くかぶった。
「こら、遥。早く行かないと試合始まっちゃうぞ」
雅樹も話を早く終わらせようと必死なのがよくわかった。
微妙な雰囲気のまま雅樹と遥の兄妹と別れると、彼女は空を見上げた。
今にも泣き出しそうな灰色の重たい空。
まるで自分の心を映し出した巨大スクリーンのように思える。
ここ数日、頭に重苦しい霧が立ちこめて何事も集中して考えられず、自分にとって大切なところが麻痺しているような感覚だった。
大きく息をつくと、夏海は一歩また一歩と、潮風にさらされて傷んだアスファルトの上を歩いていった。


