「私に?なになに?かわいい遥ちゃんのためなら何だってしちゃう」
「ほんとに?」
「うん!」
「じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんになってくれる?」
あどけない遥の口から出てきた予想もしなかった言葉に、「は!?」と夏海と雅樹の足が同時に止まる。
目をむいた夏海の様子に、雅樹が慌てた。
「遥!何を言うのかと思えば!変なこと言うなよ、ほら、なっちゃんだって困ってるだろ」
「だって私、なっちゃんに本当のお姉さんになってもらいたいんだもん。それにお兄ちゃんのお嫁さんになったら、うちのお母さんがなっちゃんの『おかあさん』にもなるんでしょ?」
「だからってそんなこと…」
「なっちゃんもお母さん欲しいって、前に言ってたもん。ね?なっちゃん、いいでしょー?ねぇー」
つないだ手をぶんぶん振りながら、甘えた声で遥は言う。
雅樹は「やめろよ」と言いながらも、彼女がどんな顔をしているのか気になってちらりと表情を盗み見る。
「参ったなー」
寒さで少しピンク色に染まった頬の彼女は、白い歯を見せた。
「どうかなーお兄ちゃんが嫌だって言うかもしれないよ」
夏海が言った。
「そんなことあるわけないよ」、と雅樹と遥は同じことを言った。
「絶対そんなことないよ、ね、お兄ちゃん?」
振り返って同意を求める妹に、彼は「え、うん」と照れたように笑った。
それに遥ちゃんのお母さんもきっと嫌がるよ、と夏海は心の内で呟いた。
彼らの母親が自分のことを快く思っていないのは重々承知だ。


