そこには転んだ3、4歳の女の子がうつぶせた状態で両手足をめいっぱいに伸ばし、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「大丈夫?」
夏海は駆け寄ると、女の子を抱き起こした。
「こけちゃったかー。痛かったね」
目線を合わせ、彼女は淡いピンクのコートについた塵を払ってやった。
「泣かないで、ね?」
そこに母親らしい女が慌てて走り寄ってきた。
「カナちゃん!」
「ママー」
まるで数年ぶりの再会のように、その二人はひっしと抱き合う。
「すみません、ちょっと目を離したスキに走り出しちゃって…」
母親はそう言って何度の夏海に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「バイバイ、おねえちゃん」
しゃがんだまま夏海も「バイバーイ」と無邪気に手を振り、しばらくうらやましそうにその親子連れを見つめる。
「いいなぁ…」
夏海にはあんなふうに母親と手をつないだ記憶がない。
いつ水分のないカサカサの分厚くなった祖母の手が、彼女を包んでくれた。
その手は時によって温かかったり冷たかったりしたが、いつも優しかった。
それでもやはり、母の手というものは一体どんなものなんだろうと、今になっても想像してしまう。
雅樹は少し離れたところで、黙ってしゃがみこんだままの夏海を見ていた。
彼女の思っていることが手に取るように伝わってきたからだ。


