「愛してる」、その続きを君に


まずい、と咄嗟に雅樹は思った。


信太郎が見えたのだ。


小さなカフェの、よりによって窓際のカウンター席で、髪の長い女の子と二人並んで談笑している。


反射的に雅樹は「なっちゃん!」と彼女の名を呼んでいた。


「どうしたの?」


夏海の視線が信太郎たちに向かないように、気を反らせたかった。


とはいっても、改札口に向かうには彼らの前をどうしても通らねばならない。


「あのさ…」


そう言ったきり、雅樹は口ごもる。


夏海にあの二人の姿を見せたくない。


信太郎にカノジョがいることすら知らないのだ。


きっと傷付く。


それでも、きっと強がる。


そんな彼女を見たくはない。


「あのバカ、なにもあんなとこで…」と信太郎に苛立ちを覚えながら、雅樹は必死に夏海の気をそらせる方法を考えた。


「マーくん、何よ?」


怪訝そうな上目遣いの瞳が雅樹を見る。


「あ、いや今度さ、映画行かない?ほら…」


信太郎とは全く正反対の方向に大々的に掲げられた映画広告看板を雅樹は指差した。


「あれのこと?」


彼の思惑通り、視線は信太郎のいると方向と逆へと移る。


「そう」


「でも、あれってさ…」


このまま何事もなく彼らの前を通り過ぎてくれ、雅樹は祈るような気持ちだった。


「あれってマーくんの嫌いなホラーじゃないの?」


思いがけない夏海の言葉に彼の頭が真っ白になる。


なんせ、適当にそれを指差したのだから、内容なんて知るはずもない。


「え?あ、そう…だっけ?」


「やっだ、やっぱりあれはホラーだって。なぁに?本当は好きだったの?ああいうの」


ケタケタと笑う彼女は、視線を看板に向けたまま信太郎たちの前を通り過ぎた。


ふぅと思わず雅樹から息が漏れる。


しかしホッとしたのも束の間、二人の背後で、ビタンッと冷たいタイルに何かが打ち付けられるような音がした。


咄嗟に振り向く夏海。