信太郎と口を利かなくなってどれくらいたつのだろう。
もう一年近く経つ。
毎朝、駅のホームで会うたびに胸が痛む。
「ごめんね」と言えば済むことなのだろうか。
だが、彼は幼なじみである夏海から離れたい、そうはっきりと言ったのだ。
「ごめん」という言葉は、なんだか的外れな気がする。
あんなに三人での毎日が楽しかったのに。
『ほら、ナツ。見てみろ』
これからもずっとそう言って星を、月を見せてくれると思っていたのに…
佐々倉夏海はそこまで考えて、ハッと気付いた。
それが信太郎には重かったのだ。
じゃあここはやはり「ごめんね」と謝るべきなのか…
頭の中でぐちゃぐちゃと整理のつかないガラクタ箱のようだった。
一体自分がどうしたいのか…
薄っぺらいコートを着ると、夏海は教室の丸い掛け時計を見た。
16時を少し回ったところだ。
いつもと同じ時間。
もうすぐ隣の特進クラスの雅樹が廊下側の窓からひょっこり顔をのぞかせて、「帰ろっか」と笑いかけてくるはずだ。
「なっちゃん」
ほら、来た。
柔らかな笑顔の雅樹と目が合う。
「帰ろっか」
「うん」


