空を見上げると、細い三日月が浮かんでいる。
こんなに空気が冷たい日には珍しく、星も月もなぜか霞んで見える。
なぜだか信太郎にはわかっていた。
自分の心が曇っているのだ。
あえて霞の中にこの身を心を委ねる自分の瞳が、曇っているのだ。
どんなに澄んだ星空でも、
どんなに鋭利な形の月でも、
彼は知らないふりをする。
あまりにも美しすぎる夜空に恐れをなして、
わざと霞がかった天を想像し、見上げる。
夏海への気持ちが確かなものだと知っているのに、
認めるのが怖い。
だから彼女への気持ちに気付かないふりをする。
夏海を意識し始めた時、雅樹も彼女を想っていることに気付いた。
信太郎なりに苦しんだ。
彼は唯一無二の親友なのだから、夏海のことで気まずくなりたくない。
それに雅樹となら、お似合いだと思う。
温厚で優しくて、夏海を幼い頃からいつも気にかけていて…。
自分が彼女のことが好きだと気付くずっとずっと前から、雅樹は夏海を大切に想っていたのではないか。
雅樹の気持ちにかなうわけがない。
悩んで悩んで、悩みぬいた結果、夏海と距離を置くという手段をとったのだ。
そして昴高校への進学を決めた。
雅樹の踏みしめる砂音を遠くに聞きながら、信太郎は固く目を閉じた。


