「話って何?」
雅樹がマフラーに顔をうずめながら、現れた。
「悪い…ちょっとな」
きれいに弧を描いた海岸。
秋とは言え、もう海から吹く風は冬のような冷たさだった。
信太郎は、雅樹を待つ間に気を落ち着かせるためにやっていた携帯ゲームを終了させた。
ポケットに携帯をねじ込むと、彼はせわしなく鼻を触る。
もう長い付き合いだ、雅樹にはそれが何を意味するのかわかる。
「なっちゃんのこと?」
口元にかかるマフラーを押しのけて、雅樹は言った。
「……」
親友の反応をうかがう。
信太郎は何か言いにくいことや訊きたいことがあると、いつもしきりに鼻を触るクセがある。
きっと夏海のことだ、そう雅樹は思ったのだ。
「…あいつのことは心配してないよ、一応毎朝会ってるし、それにおまえがそばについてるからな」
そう言うと、信太郎はジャケットのポケットに両手を突っ込んだ。
「じゃあ、話ってなんだよ」
再び顔をマフラーにうずめた雅樹は、くぐもった声で訊く。
波が打ち寄せ、次の波が来るまでのしばらくの静寂に
「俺、カノジョできてさ…」
と信太郎が打ち明けた。
「は?」
聞き返すと同時に波の音が雅樹の声を打ち消す。


