信太郎は瞳を閉じた。


静寂の中、港に停泊している船の汽笛が届く。


長めの前髪が風になびくまま、彼はそっと胸に手を当てた。


罪を犯してしまったこと。


佐々倉夏海という女性を愛したこと。


罪を犯して投げやりになり、そしてその愛から逃げた結果、彼女を永遠に失うことになったこと。


夏海への罪悪感ばかりに気をとられていたこと。


彼女を失ったという喪失感は、一生かけてでも埋め尽くせるものではないということ。


これらを少しずつ受け止めはじめていた。


逃げずに向き合おうと誓った。


夏海の存在がいかに大きなものだったか今になってわかる。


日に日にこの気持ちは増して、きっと一生続くだろう。


まさに、夏海を愛し続けるということは、彼女を失ったことを思い知らされることなのだ。


加瀬の言うことが何となくだが、わかった気がした。


彼女が今ここにいてくれたなら、今の自分にどう言葉をかけてくれるだろう、そんなことをことあるごとに思うに違いない。


隣にいるときには気付かなかった、彼女のちょっとした仕草や表情が今は懐かしい。


これが加瀬のいう愛というのなら、これが愛し続けるということならば、自分にも夏海を愛していく自信がある。


大丈夫だ、彼女を忘れたりしない。


決して色褪せた想い出にはならない。



これからもずっと夏海を愛そう。


愛し続けることができる。



彼の胸の炎は徐々に明るく勢いを増してきた。


信太郎はまぶたを持ち上げると、再び真っ暗な海に目をやった。


人生は虚しい。


虚しいからこそ


これからは毎日毎日生まれ変わろう。


そうなれば毎日が新しい命なのだから、辛いことがあっても新しいことに挑戦できるのではないか。


この足で大地をしっかりと踏みしめよう、きっとそこが自分の居場所になる


そして


いつも喜んでいよう。


いつも微笑んでいよう。


大切な夏海のために。


彼女への愛の証しとして…