全てを読み終わった時には、辺りはすで薄暗くなっていた。
信太郎は大切なものを扱うように手紙を束ねると、しっかりと抱きかかえ、おぼつかないながらも部屋を出た。
荒れ果てた庭に出ると、彼はそっと手紙の束を置いた。
静かに息を大きく吐いたつもりが、小刻みに震えていた。
庭先からのぞむ海には、燃えるような、そして消えてゆくような夕陽。
それに呼応するように、信太郎は持っていたライターに火をつけた。
その小さな小さな火を夏海からの手紙にゆっくりと近付けた。
今にも消え入りそうだった火は、その束に燃え移ると同時に、急に勢いを増した。
まるで踊るように灰は紅の空へと舞い上がってゆく。
それを見ていた。
頬に伝う熱いものを感じながら。
まだ自分には涙を流す力が残っていたのだ。
涙が次から次へと溢れていたが、かまわず宙に舞う灰を目で追った。
このくすんでしまった心を洗い流すかのように、彼は涙を流し続けた。
夏海からの手紙は、ほとんどが炎にのまれ散り散りになっていた。
この灰のように、自分たちはもう戻れないのだ、帰れないのだ。
彼女への想いだけがさまよって、こんなにも心が乱れている。


