自分の大きな声に飛び起きた。
慌てて見回すも、散らかった部屋のベッドの上だった。
「…夢か」
ねっとりとした首の汗を手の甲でぬぐうと、信太郎は再び仰向けになった。
目を閉じても眠れるわけもなく、「くそっ」と寝返りをうった。
視界に飛び込んできた雑然としたフローリング。
服やら本、綿ぼこりも数えきれない。
ふと真正面にあるクローゼットが気になった。
正確には、その中のあるものが気になった。
夏海が信太郎宛に書いた手紙が入っている。
彼女に申し訳ないと思う気持ちから逃げるように、彼は目の届きにくいところに押しやっていたのだ。
のそのそと起き上がると、彼はその扉をあけ、紙袋を取り出した。
ずっしりとした重み。
それがそのまま心に落ちてきそうだった。
だが、なぜか今それから逃げてしまうと、一生手にとらない気がした。
ベッドの上にあぐらをかくと、信太郎はそれら一通一通に目をとおし始めた。
風邪をひかないように、体調はどうですか、そんな丁寧な文字が便箋に並んでいる。
読み進めていくうちに、文字が歪み始め、とうとう何を書いているのかわからなくなっていく。
それでも夏海は力のある限り、信太郎に向けての想いをしたためたのだ。
弱々しい線が這っただけの便箋。
彼は指でそっとなぞった。
まるで彼女の頬を優しくなでるように。


