「待っていなさい。必死に生きて、這いつくばってでも生きて、待つのです。その答えがわかるまで。もうこれ以上だめだ、そう思ったぎりぎりの、本当にぎりぎりのところできっとあなたの探し物は見つかります」
信太郎はかぶりを振った。
「…そんな根性、俺にはないです」
「力不足だから、若いから、弱いから、だからできない。そんなことはありませんよ」
「そうでしょうか、俺は何をやっても中途半端で、それでもまぁいいやって納得してました。やっと見つけた夢も希望も、結局事件を起こして消えました。それは俺が今までの人生で何も得てこなかったから、困難から逃げてきたから、こうして立ち直れないんでしょう?」
信太郎が握り拳を作るのを見た山根は、ふふっと柔らかな声をあげて笑った。
何がおかしいんだ、そんな目を信太郎は向ける。
「あなたはまず、自分自身を愛してあげなければいけません。そうしないと、あなたが言う通り、亡くなった恋人への想いも消えてしまうでしょう」
「愛する?ばかばかしい。こんな自分のどこを愛するんですか」
まあまあというように、山根は手を振った。
「愛するとは難しいものではありません。ありのままの自分を受け入れ、ありのままの自分の価値を認めることです」
信太郎は内心舌打ちした。
ありのままの自分、一体天宮信太郎という男はどんな人間なのだろう、それを考えることすら吐き気がする。
それに山根の言う愛だの価値だの、結局は曖昧な上に、自分にはないものばかり。
こんな話を聞いていても堂々巡りだ、そう思い腰を浮かせた。
「神父さまのおっしゃる通りかもしれません。とりあえず、生きていればいいんでしょ。じゃあ俺はこれで」
素っ気なく「ありがとうございました」と言って頭を下げると、信太郎は教会の出口へと向かった。


