「あなたは償うということの意味を、はき違えているのではありませんか」
ふいに山根は低い声で言った。
「どういうことですか」
少しむっとした表情で信太郎は訊く。
自分は被害者にも、その被害者遺族にも申し訳ないと思ってる。
どんな罰を受けてもいい、この命を差し出せと言われたらその通りにする覚悟さえある。
それを償いと言わなければ何と言うのだろう。
「じゃあどうすれば償えるんですか。被害者にもナツにも!俺には何も残ってないんです。もうこの命しかないんですよ!」
荒げた声が教会に何度もこだました。
その音が消えてしまうのを待っていたかのように、山根は口を開いた。
「償うということは、あなたの残りの人生を清く正しく全うすることをいうのですよ」
「全うする?じゃあこのまま生きていけって?冗談じゃない、そんなこと…」
自らを嘲るように鼻で笑う信太郎に、山根は間髪入れずに言葉を重ねてきた。
「そんなこと辛すぎてできない、そうおっしゃりたいのでしょう?」
固まった笑みのまま、彼は神父を見た。
図星だったからだ。
「その辛さを、その苦しみを背負いながら生きていくことが償いなのです。自ら死を選ぶなどただ逃げているだけです」
「逃げてなんか…」
「逃げてなんかいない、そう胸を張って言い切れますか」
反論する信太郎に声をかぶせながら、山根は教会の正面に掲げられた十字架を見上げた。
「あなたは罪を犯した。それはもう変わることのない事実です」
神父にならって、十字架を見やる。
「どうすれば償えるのか、償うとはどういうことなのか、今のあなたはその答えを導き出せずにしびれを切らし、イライラし、そしてあきらめかけてもいる」
的を射た山根の言葉に何も返せない。
「けれどね」
その神父はまるで幼い子をあやすように続けた。


