「お導き?」
「ええ。あなた、さっきまでそこの通りで足を投げ出して座っていたでしょう?何もかも嫌になった、そんな感じで」
見られてたのか、と受け取った帽子を膝に置くと、彼は神父から顔を背けた。
「そんな折に風がその帽子を飛ばして、ここにあなたを導いた」
馬鹿馬鹿しい、そう内心つぶやいたものの待てよ、と思い直す。
夏海かもしれない、彼女が自棄になった自分をここに連れてきてくれたのかもしれない、そんな考えが彼の中で芽生えてきた。
くよくよしてないで、さっさと前に進みなさい、そんな彼女の声が聞こえてきそうだった。
「ナツなのか?おまえが俺をここに?」
自然に口をついた言葉に慌てて彼は神父の山根を見た。
気恥ずかしそうにする信太郎に、神父はただ柔らかな笑みを浮かべたまま頷いた。
「気持ちの落ち着くまで、ここで休んでおゆきなさい」
そしておもむろに腰をあげると、出口へと赤い絨毯の上を音もなく歩き始めた。
思わず「神父さま」と信太郎はその背中を呼び止めていた。
ゆっくりと振り返る相手に、彼は「もしご迷惑でなければ、話を聞いていただけませんか」と立ち上がった。


