「愛してる」、その続きを君に



信太郎がためらいがちに小さな建物の扉を押すと、意外にも大きな木の軋む音が中に響いた。


すり減ったワイン色の細長いカーペットを敷き詰めた通路を真ん中に、木製のこれまた古い長椅子が両脇に何列か並んでいる。


20人座れるかどうかだ。


導かれるように、彼はそのカーペットの上を歩き、奥へと進んだ。


ギシギシとなる床をゆっくりと踏みしめ、やがてその音もやんだ。


目の前には大きな十字架がまるで彼を包み込むかのように見下ろしている。


静かな空間の中で、それは凛とした姿をしていた。


なぜかそれは夏海を思わせた。


「ナツ…」


唇がそう動くと同時に、背後で空気が動いた。


振り返ると、入口で初老の男性がにこやかにこちらを見ている。


勝手に中に入ってしまったバツの悪さに信太郎が瞬きを繰り返していると、「ようこそおいでくださいました」とその男は軽く頭を下げた。


「ようこそって、あの俺…」ますます焦る信太郎に、彼は微笑んだまま近づいてきた。


「好きなだけお祈りをされてかまいませんよ」


そう言って、一番前の長椅子に腰かけるように手を差し出した。


言われるがままに腰を下ろした信太郎と、カーペットの敷かれた通路を挟んで隣に座ったその男性。


「私はこの教会の神父、山根と申します」


上品な顔立ちのその男性は、優しい眼差しを信太郎に向けた。


それでも何も言おうとしない彼の気持ちを察したのか、「名乗らなくてもよろしい。ただ、あなたが背負っている苦悩をここで少しでもおろすお手伝いができたら、と思うのです」と海風にさらわれたキャップを差し出した。


「ここに来られたのも、神のお導きがあったからでしょう」


信太郎は恐る恐る手を伸ばすと、それを受け取った。