「どうしたらいいんだよ…」
信太郎はあてもなく歩き続けた。
額からは汗が流れ落ち、何度も手の甲でぬぐった。
だがとうとう力尽きたように、錆びたガードレールにもたれて座り込んでしまった。
先程降りた駅に戻ろうにも、もう帰り道がわからない。
長い足を投げ出して、彼は空を仰いだ。
こんなところ誰も通りはしない。
邪魔になんてならない。
彼は眩しい太陽に目を細めてつぶやいた。
「なあ、ナツ。俺、そっちに行ってもいいか?」
返ってくるはずもない答えを待つ。
「こうやって生きてても、意味がないような気がするんだ。俺は弱い人間だからさ、このまま過ごしてたら、おまえへの罪悪感も薄れて、最後にはおまえを好きだったことも忘れてしまいそうで、怖いんだ」
怖いんだ、そう口にした彼の頬に一筋の涙が静かにつたった。
「いいだろ、おまえのところに行っても…」
その時だった。
突然の海からの強い風に、彼のキャップがさらってゆく。
我に返る信太郎。
だが追いかけようとはしなかった。
ただ、それが砂だらけのアスファルトを滑っていくのを見ているだけ。
やがて、車道を越えた向こう側の歩道で彼の帽子は止まった。
拾いに行くのが面倒だな、そんなことを考えていた信太郎の視界に赤いレンガ作りの小さな建物が入ってきた。
その屋根のてっぺんにある輝くあるものを見て、彼はゆっくりと立ち上がった。
左右を確認もせずに車道を横切る。
足元に帽子があることさえも忘れて、彼は眩しく太陽の光を反射する「それ」を見上げていた。


