そんな様子に黙って話を聞いていた加瀬が、ようやく口を開いた。
「彼女を今でも愛してる?」
えっ、と顔をあげた信太郎の前の加瀬は寂しげな笑みをたたえていた。
信太郎は眉をよせた。
「愛してる」。それはなんて重たい響きなんだろう。
軽々しく並べ立てるものじゃない、改めてそう思う。
それに今の自分には「愛」なんて言葉は口にするのもおこがましいくらいだ。
この夏海への想いは「愛」だと思うのに、言葉にする自信がない。
「わからないんです。これから一生、彼女のことだけを想って生きていきたいと願ってます。なのにその自信がないんです。何年か経って彼女のことが、ただの思い出になっちゃうんじゃないかって」
「その程度の気持ちだったのかい、君の彼女への想いは」
加瀬の問いかけに信太郎はむきになった。
「違います!」
自分でもびっくりするくらい、はっきりとそう告げていた。
「本当に大切に想っています、今でも!ただ先のことはわからない。俺はずっとすぐに面倒なこととか辛いことから逃げてきたから、いない相手を想い続けることの苦しさに、負けてしまいそうな気がして」
「でも彼女をずっと愛し続けたいという気持ちはあるんだね」
「…はい」
加瀬は「じゃあもう答えは出てるんじゃないのかな」と言うと、冷めきったコーヒーを一口飲んだ。


