「正直言うと、怖くて読めなかった」
すると「ちょっと待って」と加瀬は突然立ち上がりキッチンに入った。
そして手に麦茶の入ったグラスを持って再び信太郎の前に座り、そっと差し出した。
「こっちのほうが飲みやすかったかな」
信太郎は口元を微かに緩めるとそれを手に取り、一口含む。
「手紙の内容云々よりも、あいつの気持ちが重いって…苦しいって思ってしまったんです。わざとではなかったにせよ、俺は人を殺しました。そのことをあいつは責めるでもなく、ただ待ってるから、待ってるからって…」
一呼吸置いて、信太郎は今まで口には出せないでいた思いを吐き出した。
「『待ってるから』って、それは俺には希望を与えてくれるけど、あいつには苦しみとか痛みだけを残すだけじゃないかって、そう思うと怖くて手紙を読めなかった。読めば返事を書きたくなる。そうなれば、待っててくれって伝えたくなる…だから読めなかった」
やるせなさそうに語る信太郎に、加瀬はやはり何も言わない。
「あいつの命の火が消えようとしていたのに、俺は気付かなかった。手紙さえ読んでいたら異変に気付いてたはずなんだ。そしたら、たとえあいつの病気を治すことはできなくても、そばにいてやれなくても、心は寄り添えたんじゃないかって…今はそればかり考えてしまって…」
目の奥が熱くなるのを感じて、信太郎は瞳を固く閉じた。
まるであふれでてくるものを遮るかのように。


