「ふーん、綾乃ちゃんのお父さんってQ大の教授なんだ」
島田が身を乗り出した。
明らかに真向かいに座る、児玉綾乃狙いだとわかる。
「そうなの、この子ったらお嬢さまなんだから。お母さんは華道の…えっと何流だっけ…まあとにかく先生なのよ、お花の」
「やめてよ」
恥ずかしそうに綾乃は友達を小突く。
そんな彼女の姿をかわいいと思ったのか、島田はニヤニヤしながら
「すごいよな、なぁ?」
と隣に座った信太郎を見やった。
「え?あ…ああ」
窓の外を見ていた彼は、我に返ったように視線を目の前の彼女たちに戻した。
そして大げさともとれるリアクションで、
「そりゃあ、すごいね」と付け加えた。
それがあまりにもわざとらしくて、一瞬気まずい雰囲気が四人の間に流れた。
「信太郎、ボサッとすんなよ」
島田が小声でたしなめる。
「すまん」
信太郎も小さくテーブルの下で手刀を切った。
「ごめんねーこいつ見た目は言うことないんだけど、ちょっと変わっててさ」
島田はヘラヘラ笑いながらそう言うと、彼の肩を強く何度も叩いた。


