「愛してる」、その続きを君に


信太郎がある古いアパートの錆びた階段を登り終えるのと同時に、一番手前の部屋のドアが開いた。


出てきた男性の横顔に見覚えがあった。


すぐに安っぽい表札に目をやる。


消えかかってはいるもののマジックで「加瀬」と手書きされていた。


彼に間違いない。


「刑事さん」


信太郎の声に驚いたように、その男は顔をこちらに向けた。


「君は確か」と一瞬視線を宙に泳がせたが、「天宮くん、だよね」と笑みを返してきた。


信太郎が深々と頭を下げると、「よく頑張ったね」とねぎらいの言葉をかけてくれた。


「刑事さんにはいろいろとお世話になりました」


「やめてくれよ、その言い方は。俺はもう警察をやめた人間なんだから」


参ったな、とでもいうように相手は頭をかく。


「それよりもよくここがわかったね、あ、そうか桜井さんに聞いたんだ」


桜井とは、加瀬と一緒に信太郎の取り調べを担当した年配刑事だ。


「はい、今はこちらにいらっしゃると聞いて…」


「そっか。桜井さんは元気だった?」


「とても。加瀬さんにもよろしくとのことです」


その言葉に微笑むと「ここじゃなんだから、入って。散らかってるんだけど。時間はある?」と加瀬は今しがた閉めたばかりの扉を開けた。


「いや、でも」と遠慮がちに顔の前で手を振ると、「大丈夫、俺ひとり暮らしだから」と今度は苦笑した。


「じゃあ…」と信太郎はゆっくりとキャップを取った。