すると綾乃が目をつり上げ、「あなたは本当に意気地なしよ」と信太郎の腕を強く揺さぶってきた。
「天宮くんは夏海さんを選んだんでしょう!私ではなくて、夏海さんのことがずっと好きだったんでしょう!だから彼女を選んだ!違うとは言わせないわよ!」
そこまで言うと、綾乃の珠のような瞳から、はらはらと涙がこぼれた。
「だったら私が天宮くんのことを諦められるくらい、夏海さんへの強い気持ちを見せてよ!やっぱりあの人にはかなわないんだって、思い知らせてよ!いつまでこうやってウジウジしてるのよ!!」
「綾乃」
戸惑う信太郎に彼女は続けた。
「私、夏海さんがいなくなった今、また天宮くんを取り戻せるんじゃないかって、心のどこかで思ってる。夏海さんがいた頃はそんな気持ち、全くなかったのに。自分でもわからないけれど、今のあなたを見てると、私がそばにいてあげたいって思っちゃう。そんな自分が醜くて穢らわしくて仕方ないの!夏海さんは大切な友達のはずなのに、その人の好きな人を私は自分のもにしたいって、そう思ってしまう!」
信太郎は胸がえぐられるようだった。
「だから、天宮くんには夏海さんしかいないんだって、私にわからせてよ!!」
信太郎は下唇を噛み締め、固く瞳を閉じた。
耳にはびゅうびゅうと海風の音だけが届いた。


