「ちくしょう」
信太郎は立ち上がると、綾乃を背後から見下ろした。
何も言わないその華奢な後ろ姿に責められているように思えてたまらなかった。
「なんで君がここにいるんだって聞いてるんだけど」
あからさまに棘のある言い方を彼はして、手についた砂を払った。
それでも綾乃はぴくりとも動かない。
「聞こえてんだろ?だったら答えろよ!」
異性に対して、生まれて初めて彼は荒々しい言葉をぶつけた。
「どいつもこいつも!何か言いたげなくせに、目が合うとそそくさと逃げる!」
豊浜の人間のことだ。
ここに戻ってきた当初の信太郎には、町の人間からの冷たい視線や非難を受ける覚悟はできていた。
それに耐えることが自分に課せられた罰なのだと思っていたからだ。
だが現実は想像以上に厳しかった。
第一、夏海がいない。
たとえ彼女が殺人を犯した自分に愛想をつかして離れていっても仕方ない、と思っていた。
けれど夏海の姿を見ることができたなら、彼女を想う気持ちを持ち続けていられたなら、どんなことも耐えよう、そう誓って刑務所を出てきた。
この豊浜に戻ってきた。
なのに、肝心の夏海がいない。
この世のどこを探してもいない。
想いの行き先がない。
完全に信太郎の心は折れてしまった。
無遠慮な好奇と非難の視線。
思った以上に、それは彼にとってはきつかった。


