「愛してる」、その続きを君に



すると突然影が彼を覆った。


雲が太陽を隠したのでもないことはすぐわかった。


誰かが自分をのぞきこんでいるのだ。しかし目を開けることはしなかった。


どうせ雅樹だろう、こんな自堕落な生活をしている自分に説教でもしに来たに違いない、そう思ったからだ。


彼は相手がどうでるか待つことにした。


再び閉じた瞼に光が射し込んでくると同時に、雅樹であろう人物がすぐ横に腰かける気配がした。


面倒くさいな、と信太郎は心のうちで舌打ちをした。


相手が腰をすえたということは、長い話になるに違いない。


しかし、それから随分時間が経っても相手はそれ以上動かなかった。


しびれをきらしたのは信太郎のほうだった。


隣に座る人物を盗み見するように、そっと目を開けてみる。


一番に飛び込んできたのは、海風にたなびく長い髪だった。


思わず上半身を起こす。


「…綾乃…」


そこには児玉綾乃が細い膝を抱えて、真っ直ぐに海を見つめていた。


まるで人形のように微動だにしない。


意外な人物が現れたことに思いがけず焦ってしまった信太郎は、ごまかすように「何か用?」と愛想なく訊いた。


けれど何も返ってこない。


「なんで君がここにいるんだよ」


次は幾分か不機嫌さを含んで問うた。


が、結果は一緒だった。


「とうとう人形にでもなったのか」


吐き捨てるように言うと、信太郎はのそのそと立ち上がった。


ろくな食事をしていないせいで、少しよろついてしまう。


「くそっ、何なんだよ!」


綾乃に対してか、弱った自身の身体に対してか、彼もよくわからなかったが、こうやって悪態をつくことでしか自らを取り繕うすべがわからなかった。