見慣れた顔のいない高校生活。
真新しくて、何もかもが新鮮なはずなのに、どこか物足りない。
常に自分の近くにあったもの失くしてしまった喪失感が、天宮信太郎の胸にじわじわと広がっていた。
男子校なんてロクなもんじゃない、と自分で選んでおきながら彼は苦笑する。
なんせときめく対象が、恋する対象がいないのだ。
右を見ても男、左を見ても男、前も後ろも男、男、男。
黄色い声が聞こえないことが、こんなにも味気ないものだったとは予想だにしなかった。
「なぁ、信太郎。おまえ、放課後暇だろ?」
まだ残暑が厳しい昼休み。
島田と言うクラスメートの言葉に、彼は弁当をつつきながら「そうでもない」とだけ答えた。
「嘘つけ、今は部活してないじゃん。中学の時バスケ部だったんだろ、なんでしないわけ?」
「バスケはもう極めたんだよ」
嘘だった。
県の選抜チームにまで入っていたの、に腰を痛めて今まで通りのプレーができなくなったのだ。
もうあんな挫折は味わいたくない、それが彼がバスケをあきらめた理由だった。
「それよりさ、カノジョほしくね?」
「別に」
「別にってなんだよ。欲しいのか欲しくないのかハッキリしろよ」
「はあ?なんでそんなこと訊くんだよ」
箸を置くと信太郎は頬杖をついた。
「実は先輩がさ、Y女のかっわいい子を紹介してくれるって言うんだよ。だから、信太郎もどう?」
「いいよ、興味ないし」
「嘘つくなよー」
「話はそれだけ?」
食べかけの弁当箱の蓋を閉めながら、信太郎はつっけんどんに訊く。
「冷たいなぁ。頼むよ、ついてきてくれよ。俺さ、あんまり女の子とうまく話せないんだって。だから先輩が2対2で会えばって言ってくれてんだよ。な?頼むから顔出すだけ。すっげぇかわいい子が来るって言ってたし、目の保養に…」
手を合わせて島田は信太郎を拝み倒した。
ふうむ、と腕組みをして考える素振りを見せると、彼は「ほんっとにかわいいんだろうな」と念を押した。
「ああ、間違いない!」
島田が即答する。
「よし、わかった、行ってやるよ」
「サンキュー!!ついでに俺をたててくれよな」
「ったく仕方ないなー。で、いつだよ、それ」
再び頬杖をついて、信太郎は訊ねた。
「今日」
「は!?ばっか、なんでそんな急なんだよ」
「都合悪いのか?」
友人は困った顔で信太郎をのぞきこむと、彼は真顔で「まずいな、今日は髪がキマッてないんだって」とツンと立った前髪を撫でながら答えた。


