「夏海」
克彦がその痩せた背中を何度か撫でているうちに、「しいて言うなら」と彼女はまた視線を窓の外に写した。
「時間、かな」
その答えは克彦の胸をえぐるようだった。
できることなら自分に残されたの命を娘に捧げたいと、切に思うほどなのに。
言葉を返せないでいると、夏海のほうが気を遣ってか、「なーんてね。やっぱり誕生日はケーキだよね。ケーキ買ってきて」と明るく言った。
「フルーツがいっぱいのってるやつ」
克彦は大袈裟に笑うと「いやしいな、おまえは。ロウソクはつけてもらうのか」と訊いた。
「当たり前でしょ」
「何本だっけ?」
「21本」
「…21か、もうそんなになるんだなぁ」
「ちゃんと予約しといてよ。カットケーキでごまかさないでよね。スーパーのもダメ。あ、そうそう。チョコのプレートもつけて。夏海ちゃんお誕生日おめでとう、ってね」
わかったよ、注文の多いやつだな、と克彦は軽く手をあげ病室を出ようとドアノブに手をかけた。
「ねぇ、お父さん?」と娘の声が呼び止める。
なんだ、と答える代わりに克彦は振り返った。
「21年間、いろいろあったけど楽しかったね」
そんな夏海の言葉に喉仏が熱く震える。
「これからも、もっともっと楽しいことがあるさ」
意識して彼は笑顔を向けた。
だから早く元気になれよ、だが、その言葉は声にはならなかった。
「お父さん、手紙…」
何か言おうとした夏海は、再び咳き込み前屈みになった。
克彦が慌てて駆け寄り、背をさする。


