風が優しく部屋に吹き込んみ、ハタハタと白いカーテンレースをはためかせては、すっと身を引く。
「お父さん」
夏海はかすれてはいるものの、しっかりとした声で克彦に言った。
「ベッドを起こしてくれない?海が見たいから」
その様子に今日は調子がいいのだと彼は思い、娘の言うとおりにリクライニングベッドを操作した。
視界が広がるにつれ、夏海の顔も光が射すように明るくなる。
「気分は悪くないか」
「ちっとも。最高にいい気分」
そうかすかに笑って、入ってくる風に目を細めて微笑む。
しばらくふたりで海を見ていた。
あちらこちらに光の粒を散りばめながら、海面は波もほとんど立たず、穏やかだった。
夏海が生まれた日もこんないい天気だったな、と克彦は思い出した。
「明日はおまえの誕生日だな。何か欲しいものはあるか」
夏海は少し考えるそぶりをすると「ないなぁ」と肩をすくめた。
「今までなら欲しいものいっぱいあったのに、いざお父さんのほうからそう訊かれると思い付かない」
「それは惜しいな、何でも買ってやろうと思ってたのにな」
「ほんとに?やだ、ちょっと考えるから待って」
そう言って笑うと同時に夏海は咳き込んで前屈みになった。


