この若い肌とは対称的な夏海の荒れた手。
自分は何でも持っている。
優しい家族も健康も友達も、未来も。
それらがこの夏海にはないのだ。
だが、そのことで彼女に優越感を感じたことは不思議とない。
ただ、いつも佐々倉夏海という人をうらやましいと思っていた。
天宮信太郎という人の心をつかんで離さない。
そして病と闘いながらも、いつも前を向いて精一杯生きている。
こんなまぶしい人を綾乃は見たことがなかった。
だから彼女が好きなのだ。
恋敵という前に、一人の人間として夏海が大好きなのだ。
その彼女が信太郎を支えてあげてほしいと言っている。
それが少なからず綾乃を傷付けていることに、夏海自身は気付いていないだろう。
たまらず綾乃は言った。
「確かに私は天宮くんが今でも忘れられない。でも彼とどうにかなりたいからって、夏海さんとこうやって一緒にいるんじゃないわ。下心があって、あなたに会いに来てるんじゃない。友達だと、親友だと思ってるここにいるの」
強い口調の彼女とは対照的に、夏海はまたくすりと笑った。
「わかってる」
顔をあげると、夏海の優しい瞳とぶつかった。
「綾乃さんがそんな人じゃないってことくらいわかってる。もし、そんな嫌なやつだったら、二度とここに来ないでって、とっくに追い返してる」
夏海はふうっと天井を見上げて息をつき、「美人は性格悪いっていうけど、あれは嘘だね」と笑った。
「綾乃さんとなら、信ちゃんは幸せになれると思うから、お願いしてるんだけどなぁ」
「何を言っているの!」
「こんなこと、綾乃さんにしか頼めないもん」
「やめて、だいたいどうしてそんなことを言うの。天宮くんが帰ってきたら、私にふたりの仲のいいところを見せつけてくれるんでしょ?」
ああ、と夏海は微笑みながら天井を見上げた。
「そういえば、前にそんなこと言った気がする。私のほうが嫌なやつだよね。でも…」
そう言葉を続けながら、夏海はゆっくりと窓の外に目を向けた。
綾乃もそれにならって視線をやる。
「私たちの恋には、もう続きがないの」
夏海の瞳が揺れた。


