自分の房の前で革靴の音がぴたりと止まると、信太郎は何かしら期待したような気持ちになっていた。
差し出される手紙を、今か今かと待っている自分がいる。
しかし、無情にもその足音は再び遠ざかっていく。
ただの見回りか、と何度目かの大きな息をついた。
最近、夏海からの手紙がこなくなっていた。
中身を読む勇気もないくせに、一度途絶えると不安になった。
返事をよこさない自分に見切りをつけたのかもしれない。
それを望んでいたのに、いざ連絡が来なくなると切なくてこの胸がかきむしられるように痛くなった。
忘れてくれ。
忘れないでくれ。
両極端の思いが、せめぎ会う。
今月に入ってからというものの、後者の思いのほうが強くなっていた。
もうすぐ裁判が始まる。
長かった。
目撃者がいないということで、証言の裏付けがなかなかとれなかったのだ。
過失致死か傷害致死か。
弁護士が言っていた。
正当防衛が無理なら、過失致死で闘おう、検察だって傷害致死を持ち出すだろうからと。
正直、彼にはどうでもいいことだった。
人の命を奪ってしまったことには変わりないのだから。
相変わらず、両親と姉、親友の辻本雅樹が面会したいと拘置所まで来てくれたが、信太郎は会わなかった。
きっと会ってしまえば、今まで張り詰めていたこの緊張の糸が切れてしまう。
「ナツはどうしてる?」そう訊いてしまう。
まぶたを閉じれば、『信ちゃん、信ちゃん…』と笑顔でそう呼ぶ彼女が見えた。
「ナツ…」
膝を抱えて小さくなったまま、慎太郎は格子窓から見える切り取られた青空にそう呼び掛けた。


