「愛してる」、その続きを君に



雅樹は大きく見開いた目の縁が、みるみるうちに熱くなるのがわかった。


「これを天宮くんに出していいものかどうか、悩んでるの」


綾乃は風になびく柔らかな髪を手で抑えながら言った。


「天宮くんには病気のことを知られたくないって夏海さんは言ってたわ。だけど、この手紙を見たら、きっと彼は異変に気付く」


「なっちゃんは…」


そこまで信太郎のことを…その部分はもう胸がつかえて言葉にならなかった。


雅樹は震える手で、何度も顔を撫でた。


「私は送るべきではないと思うの。辻本くんならどうする?」


歩みを止めた二人に、容赦なく冷たい海風がふきつける。


油断すると便箋がその風にさらわれそうになり、雅樹は指に力を入れた。


いっそのこと、飛んでいってしまえばいい、そんなことを内心思っていた。


何も言わない彼に、綾乃が確認をするように切り出した。


「送らないほうがいいわよね」


「…どうして?」


「言ったでしょ、この手紙を見た天宮くんは必ず夏海さんに何かあったと思うわ。それを彼女は望んでいないんだもの」


「だけど、信太郎はなっちゃんがあれだけ手紙を出しても、返事ひとつよこさない。あいつはきっと誰からの手紙も読んでないさ。面会だって全部断ってるしね」


「読んでるかもしれないじゃない」


「読んでないよ、あいつは。そういう奴なんだって。もし仮に読んでたとしよう。なっちゃんのその手紙を見て、彼女に何が起こってるか知れば、必ずあいつから連絡をよこす。そのほうがなっちゃんのためにもいいんじゃないかな」


「そうかしら」


そう首をかしげる綾乃を、怪訝な顔つきで雅樹は見る。


「だって、この手紙を書いてる時の夏海さんは、まさかこんなふうに字が歪んでるだなんて思ってもいないもの。いつもの通り、天宮くんの体調を気遣って自分は仕事をがんばってる、待ってるから、そんな内容なはずよ」


そうだったのか、いつもそんな内容だったのかと雅樹は胸が疼いた。


今まで内容は気になっても、あえて訊くことはしなかったのだ。


初めて知った手紙の中身。


「彼女の異変に気付いた天宮くんからの連絡は、もうまともにペンを持てなくなったことを夏海さんを心配するようなものになるわ。それは夏海さんにとって一番避けたいことよ」