綾乃は雅樹の話をすべて聞き終えた後に、ため息混じりに言った。
「そう、そんなことがあったの。通りでこっちに長くいると思ったわ」
力なく微笑む雅樹。
「辻本くんは、もう夏海さんのところには行かないの?」
「行くよ。ここで引き下がったら俺の気持ちは所詮そんなものかってなっちゃうし。でもおじさんが言った通り、なっちゃんが俺に会いたくないのなら…」
「……」
そればかりは綾乃は何も答えられなかった。
夏海も年頃の女の子だ。
まだ起き上がれた頃に言っていた。「自分の姿に嫌気がさす」と。
「ところで、俺を追いかけてきてくれたんだよね。何か話があるんじゃないの?」
綾乃の気まずそうな雰囲気を察してか、雅樹が話題を変えた。
「ええ。そうなの。ちょっと相談したいことがあって」
そう言いながら彼女はバッグの中から一枚の便箋を取り出した。
「夏海さんが書いた、天宮くん宛の手紙よ」
そう言って、彼の目の前に差し出す。
しかし、雅樹はためらったように視線を足元に落とし、受け取ろうとはしなかった。
「見てほしいの」
「だけど…」
「いいから、見て」
読んで、という言い方をしない綾乃に何かを感じたのか、スローモーションのような動きで彼は便箋を受けとると、それを開いた。


