しばらくすると大切なことを頼み終えた安心感からか、夏海は目を閉じ寝息をたてはじめた。
綾乃は歪んで折られた便箋を悪いとは思いながらも、そっと開いた。
次の瞬間、涙が溢れていた。
その便箋には、いつ途切れてもおかしくないような弱々しい線が、横に縦に、そして斜めに走っていた。
黒い、細い糸が便箋の上に無造作に散らばっている。
文字、というには程遠い。
何と書いてあるかさえもわからない。
きっと朦朧とした意識の中で、夏海は力をふりしぼって書いたのだろう。
綾乃は漏れ出てくる嗚咽を手で抑えながら、気持ちが落ち着くのを待った。
「児玉さん、悪かったね」
病室に帰ってきたのは、克彦だけだった。
「辻本くんは?」
「あ、ああ、彼は急用ができたとかでね」
しどろもどろに答える克彦の様子に、何かあったのだと綾乃は察したがそれを表に出すことなく、バッグとジャケットを手にとった。
「私もそろそろ失礼します」
「いつもすまないね」
「いえ、友達ですもの」
その言葉に、彼は寂しげな笑みを浮かべてありがとう、とだけ言った。
「ではまた」
夏海の信太郎への手紙が入ったバッグを大切そうに胸に抱えると、綾乃は病室を出た。
廊下に出た彼女は、無意識のうちに早足になっていた。


