信太郎に払われた手をもう一方の手でそっと撫でると、夏海はうつむきながら言った。
「もうわかったから…信ちゃ…ううん、この人がそんな風に私たちのことを思ってたって、わかったから…」
「なっちゃん…」
「だってさ。あいつもそう言ってるんだし、もういいだろ?ほら、離せよ、手」
掴まれた腕を信太郎が揺すると、雅樹の手がストンといともたやすく落ちた。
そんな彼らに構うことなく、信太郎はさっさと歩き出す。
その足音が遠ざかるまで、残された二人は呆然とその場に立ち尽くしていた。
「知らなかった…そんな風に思ってたなんて。ちょっとショックだな。でも信ちゃんの言う通りかもね。私なんかがいつもくっついてたら、嫌になっちゃうよね」
前髪を触る手で顔を隠しながら、夏海は震える声で言った。
「そんなことないよ」と雅樹。
「いいの。仕方ないって、もうちっちゃい頃とは違うんだもん」
「……」
雅樹も返す言葉が見つからず、うつむいた。
「うん!仕方ない。もう幼なじみなんて古いんだよ」
自分に言い聞かせるように夏海は声を張り上げ顔を上げた。
微かに笑ってはいるものの、目の周りが真っ赤に染まっている。
「帰ろっか、マーくん」
「そだね…」
雪が降るなんて天気予報では言ってなかったのにな、と思いながら、夏海は少しクセのある黒髪に白い小さな綿をいくつもつけて、家の玄関を開けた。


