夏海は綾乃を見上げながら、幾分か目を開き、ある方向へと視線を向けては彼女を見る、といったことを繰り返した。
「なあに?」
それに気付いた綾乃が夏海の視線の先をたどると、備え付けの引き出しだとわかった。
「ここ?」
確認するように彼女は引き出しを指差し、開けるわよと言った。
滑りの悪くなった引き出しをがたつかせながら開けると、中からクリーム色の折り畳まれた便箋が入っていた。
折り畳まれた、とはいっても幼い子が初めて折り紙に挑戦したような、稚拙な折り方だった。
そっと綾乃はそれを取り出すと、「天宮くんへの手紙?」と訊いた。
すると、嬉しそうに夏海は頷く。
こんな状態でも、手紙を書く気持ちは衰えないのだ。
執念というべきだろう。
綾乃は夏海には叶わないと思った。
これほど彼を想う夏海には、到底かなわない。
そして同時にこんな彼女のけなげさに胸が熱くなった。
涙をこらえ鼻をすすると、綾乃は明るく笑って言った。
「じゃあ、いつものように私が出しておくわね」
お願い、そう夏海の口が動いた気がした。


