「おじさん?」
わけもわからず引きずられるように、廊下のつきあたりまでやってきた。
雅樹は、向かい合った目の前の夏海の父親の表情にただならぬ気配を感じて、つばを飲み込んだ。
「大学、休学してるんだって?」
えっ、と雅樹が息をのむ間もなく、克彦は続けた。
「もう、夏海を見舞ってくれなくてもいいから、大学に戻ってくれないか」
「…おじさん!」
「君の優しさは、夏海も俺ももう十分に受け取った。だからマー君、君は君の人生を生きるべきだよ」
母さんだ、雅樹は咄嗟にそう思った。
「母が何か言ったんですか」
いいや、と克彦はゆっくりと首を横に振った。
「じゃあどうしてそんなこと」
「夏海も女だ。ああいう姿を異性の君に見せたくないと思うんだ」
そう言われてしまえば、言い返せない。
「確かに俺が休学を決めたのは、なっちゃんのそばにいたいと思ったからです」
「だけど、マーくん、夏海は…」
「わかってます。父にも言われました。俺は信太郎じゃないし、信太郎にもなれないって」
身体の横にぴったりとつけた手を握りしめると、雅樹は大きく息を吸った。
「それでもいいんです。それでもなっちゃんが好きなんです」
好きなんです、その言葉が出るや否や、克彦は眉間に皺を寄せたまま瞳を閉じた。


