それから数年が経ち、佐々倉夏海と辻本雅樹は豊浜町から電車で1時間かけてA市にある県立花田高校に通っている。
一方、天宮信太郎は同じくA市にある私立の男子校、昴(スバル)学園に籍を置いていた。
豊浜の駅からA市への上り電車は朝のラッシュ時でも1時間に1本しかない。
それに乗り遅れるということは、必然的に遅刻を意味していた。
通う学校は違うけれども、乗る電車はいつも同じ、それがこの幼なじみ三人の常だった。
しかし、夏海と信太郎は中3の冬から口を利いていない。
目を合わすことすらしなかった。
雅樹が間に入り、仲を取り持とうと努力するも焼け石に水だった。
原因は高校受験。
夏海も雅樹も、信太郎が私立の昴学園を第一志望にしていることを全く知らなかった。
てっきり同じ公立の花田高校を受験するものだと思っていたのだ。
「信ちゃん!どうして?」
「あ?何が?」
「なんで何も言ってくれなかったのよ?」
年が明け、高校入試まであと数えるほどとなったある日。
豊浜に雪がちらついていた。
はらはらと紙ふぶきのように雪は宙を舞い、地に落ちてはスッと音も無く消えていく。
いつもの帰り道、夏海は信太郎の腕を掴んで言った。
「黙ってるなんてひどい」
「人聞きの悪い言い方すんなよ。おまえだって訊かなかっただろ」
「そうだけど…でもなんで昴高なの?信ちゃんなら花田でも余裕じゃない」
夏海の言う通り、信太郎の成績は学年でも上位に必ず入っていた。
彼の第一志望とする昴高校は男子校で、花田高校を受験する者が滑り止めによく受けることで知られていた。
「スバルって言う名前が気に入ったんだ。ほら、牡牛座の星団で…」
「ふざけないでよ!」
夏海は顔を真っ赤にして怒鳴った。


