そう言う斉藤医師に、雅樹は憤慨した表情で言い返した。
「その診療所のドクターはこのW大を卒業され、僻地医療に大変貢献されている方です」
「だったらその先生を信頼してもいいんじゃないかな。要は患者さん本人の想いだよ。誰の他でもない、本人が決めること。周りの人間は最期の願いだと思って叶えてやってもいいんじゃないかと、私は思うけどね」
「もっと生きて欲しい、そういう家族の気持ちよりも?」
「辻本くん。君は大切な人が痛みにのたうち回っている様子を、目をそむけずに見ていられるかい?その激痛が1時間に1度襲ってくるとしよう。2日で48回、1週間で160回以上にもなる。それを君は冷静に見ていられるのかな」
「……」
「意識もなく身体中チューブでつながれ、呼吸さえも機械に頼らなければならない大切な人を見て、ああ幸せそうだって君は思えるかい?」
「…それは」
「私はどうしてもそう思えなくてね。妻が、両親がって思った時に、早く楽にしてあげたいって思ってしまうんだよ」
「僕も…きっとそうです」
「延命治療はしないでほしい、そういう人が増えてきている。当然と言えば当然だよ。医療技術の進歩で機械が代わりに心臓を動かしてくれる。呼吸をさせてくれる。でも、そこまでして生きることが患者さんの本当の望みかどうかはわからない」
身体になじんだ斉藤医師の白衣からは、ツンと消毒液の匂いがする。


