「愛してる」、その続きを君に



「豊浜に帰りたい」


「ああ、元気になって帰ろうな」


「違う、今帰りたい。あの海と空を見ながら過ごしたい」


「…夏海」


「あそこなら、お母さんもおばあちゃんも近くにいてくれる気がする。信ちゃんも…そばにいる気がする…」


「でも治療があるだろう?」


幼子をなだめるように、克彦は穏やかに言う。


「嫌…どうせ死ぬなら、豊浜で死にたい」


「何を言ってるんだ」


「帰りたい…」


涙が伝い、耳を濡らす。


「そのことは後で話そう」


点滴チューブに血が逆流するのを見て、克彦が話を一度切りナースコールを押した。


点滴を外してもらう間、夏海は宙に漂うものを追うかのように、ゆっくりと目を左右に動かしていた。


そしていつの間にか、眠りへと落ちていった。


痩せて肌つやも悪い。


道を歩く度に、克彦は娘と同年代の子を見ると切なくなる。


おしゃれをして、恋をして、旅行にも行きたいだろう。


何一つ自分の娘はできないのだ。


病室にいるときは、生きていてさえいてくれればそれでいい、と思うのに、一歩病院の外に出ると、あれもしてやりたい、これもしてやりたいと悲しくなる。


気がつけば、歩きながら泣いていることさえある。


握っていた細い手をそっと離すと、克彦は病室を出た。