「愛してる」、その続きを君に



そっと腕を隣に伸ばす。


癖になってしまったその動作。


手応えのなさに、信太郎は目を覚ました。


隣にいるはずのない夏海をつい抱きしめようとしてしまう。


いや、夢の中ではこの胸の中に確かにいたのに。


拘置所の格子窓から射し込む朝の光に、霧のように彼女は消えてしまったのだ。


そしてまた目を閉じる。


彼女を再び抱きしめたいと願いながら。


毎日のように、彼の両親が面会にやってきた。


けれど信太郎は決して会おうとはしなかった。


弁護士から聞いた話では、もう豊浜の家にはいられなくなり、別の土地へ引っ越したという。


恵麻も会社を辞め、今は食品会社の下請け工場で働いているらしい。


自分の犯した罪がこんなにも周りを狂わせ、不幸にしているのかと思うと、一体どんな顔をして会えばよいのかわからなかった。


面会に応じない彼に、手紙が何通か届けられた。


両親から、姉から、雅樹から…


しかしそれを読むことはなかった。


そして愛する夏海からも手紙が届いた。


その淡いブルーの封筒を受け取った時、あの海が目の前に広がり、手が震えた。


ふたり寄り添って眺めた海。


何度も口づけをするふたりを見守ってくれた海。


その封筒に手を触れることは、夏海に触れているような錯覚を引き起こした。


恐る恐る丁寧に折られた便せんを開くと、信太郎の身体を気遣う優しい言葉が連なり、自分は元気にしているから心配しないように、と綺麗な文字でしたためられていた。


そして最後の「待ってるから」という言葉に、彼は頭が真っ白になった。