「父さんが絶対に助けてやる。だから信ちゃんが帰ってくるまでに、びっくりするぐらいのいい女になって、プロポーズしてもらえ」
「…いいの?信ちゃんとまた一緒にいても?」
「ああ」
「でも信ちゃん…私なんかをお嫁さんにしてくれるかなぁ…」
「あったりまえだろ。もし『嫁にもらえない』、なんて言ったら父さんがぶっ飛ばしてやる」
「ふふっ。でも、お父さんは私がお嫁に行ったら寂しくない?ちゃんと自分のことできる?ご飯とか洗濯とか…」
「そんなこと心配すんな」
「…心配だよ」
「じゃあ、父さんの近くに住め。信ちゃんとおまえと…そうだ家を建てたらいい。おまえの夢だった2階建てのな。それから孫の面倒もみてやるから、たまには二人で出かけてくるといい」
「……」
もう声が出なかった。
多くを望んできたわけじゃないけれど、いつかそんなふうになればいいと思っていた。
きっと叶わないであろう、その夢。
もう信太郎に会うことすら叶わないだろう。
そのことを夏海も克彦もわかっている。
でも口に出さずにはいられなかった。
そんな人並みの「夢」を。
「婿が信ちゃんなんて、なんだか変な気分だな」
「そう?」
「あいつ俺のこと、おっさんって呼ぶのに、急にお義父さんってのもなぁ…」
「いいじゃない」
「一緒に酒飲んでくれるかな?」
「もちろんよ」
そうやって、父娘は静かな病室で、泣きながら夜更けまで抱き合っていた。


