「夏海…」
目の周りを真っ赤にしながら、克彦はベッドに腰掛け、娘の手を取った。
「おまえの病気は…」
その先の言葉に急に恐怖を感じ、思わず耳をふさぎたくなる。
しかし、彼女はどうにかそれに堪えた。
「おまえの病気は、スキルス性胃ガンだそうだ」
「…ス…キルス?」
「あちこちにガンが転移していて、手術はできないそうだ」
覚悟をしていたつもりだったが、めまいがした。
「夏海」
「だ、大丈夫」
彼女は額に冷たい手を当てた。
大きく息を吸うも、うまく吐けない。
「…それで?それで私はあとどのくらい生きられるの?」
「……」
「お父さん、教えて」
「…わからないそうだ」
「…嘘っ!」
「本当だ。こればかりは、斉藤先生もわからないって…」
うつむく父に夏海は自分の命がそんなに長くないことをはっきりと悟った。
無器用な父が、こればかりは言えないと必死につく嘘。
これ以上聞き出すのは、きっと父を今以上に苦しめることになる。
「ありがと…」
「え?」
驚いて見開いた克彦の目が真っ赤に充血し、下まつげがぬれていた。
「本当のことを言ってくれてありがと。お父さん」
夏海は微笑んだ。
でも笑おうと目を細めると、涙が溢れて、父の姿がぼやけた。
「夏海!」
克彦が強く強く抱きしめる。


