「ねぇ、お父さん」
「ん?」
「どうして部屋替わったのかな。しかも個室」
「さぁな。まぁいいじゃないか。一人の方が気が楽だろ」
パタンと冷蔵庫の扉を閉めると、克彦が痩せた笑顔を見せた。
その顔に胸が刺すように締め付けられる。
実の娘にこんなに気を遣って…そんな申し訳なさでいっぱいになった。
「…いいんだよ、本当のことを言ってくれても」
タオルケットをぎゅうっと握りしめ、夏海はうつむいた。
「本当のことって何だよ」
「お父さんばっかり苦しまなくていいんだよ」
「ははっ、おまえ何言って…」
「私は本当のことが知りたい。どんな病気なのか、これからどうなっていくのか全部知りたい」
「…夏海」
「もし私に残された時間が少ないなら、それでもいい。覚悟してる。だからそれなりの生き方をしたい」
「……」
「一人で抱え込まないで。私、お父さんが思ってるほど、弱くないよ」
それでも克彦は苦しそうな顔のまま、何も言わなかった。
「じゃあ、これだけは教えて」
夏海は父を見る。
「私は信ちゃんにまた会える?罪を償って出てきた信ちゃんに、会える?」
とうとう訊いてしまった、そんな想いが彼女の身体を駆けめぐる。
残された命がそんなに長くないことは何となくわかっていた。
だけど、はっきりとした「余命」を知りたい。
怖くない、と言えば嘘になる。
でも知りたい気持ちのほうが勝る。
自分の人生なのだ、悔いのないように生き抜きたい。
「ねぇ…また会える?信ちゃんに」


