「ここは西陽があたるのね」
そう言ってカーテンをひこうとする綾乃の後ろ姿に、夏海は声をかけた。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「なぁに?」
「明日ね、私を訪ねてそこそこのイケメンが来ると思うの。その時もし綾乃さんがおばあちゃんのところにいるようなら、部屋が替わったことを伝えてくれない?」
「イケメン?」
「そう。でもそこそこよ。そこそこのイケメン」
「浮気者」
いたずらっ子のような目で綾乃は夏海を振り返る。
「じゃあ、天宮くんは私のものね」
「ダメダメ、そんなの。それに、そのイケメンくんは、ただの幼なじみだから」
「ふぅん」
「疑ってる?」
うふふ、と綾乃は笑うと夏海のベッドに腰掛けた。
「わかったわ。会えたら伝えておく。でも、ここ個室だから、そのイケメンくんとふたりっきりになっちゃうじゃない?怪しい感じ」
そう言って意味深な笑みを向けた。
「あり得ません」
夏海は綾乃の陶器のようなきめの細かい肌をした額を、軽く指で弾いた。
その夜、作業着姿のままで克彦が夏海のもとを訪ねてくれた。
入院してからというものの、会社に無理を言って夜勤は入れていない。
「おーい、プリン買ってきたぞぉ」
コンビニのビニール袋に3つ、4つ入っているのだろう、ゴツゴツと袋がいびつな形に膨らんでいる。
「今食うか?」
「ううん、後で食べるよ。ありがと」
克彦はそうか、と言って備え付けの冷蔵庫の前にしゃがみこんだ。
「最近のコンビニは、いろんなものがあるんだなあ」
袋から取りだしたプリンを大切そうに中へと入れていく。
そんな後ろ姿を見ながら、夏海はガサガサの唇をなめた。
夕陽でオレンジ色に染まったこの部屋で、ずっとひとり考えていた。
父が何かを隠して、心労のあまり一気に老けてしまったのは一目瞭然だ。
何も知らないふりをして治療を受けるべきか、それとも…


