斉藤医師と入れ替わるように、雅樹が額に汗を滲ませながら現れた。
「もう9月だっていうのに、まだまだ暑いね」
そう言って、シャツの襟元をパタパタとはためかす。
「おはよ、マーくん」
「おはよ、なっちゃん」
目が合うと、二人は微笑む。
あれ以来、信太郎の話はお互い遠慮して、しなくなった。
話題にすれば、雅樹は腫れ物を扱うように夏海に接する。
それが心苦しかったのだ。
それに彼の罪に対する「決意」を知ってからは、自分には何もできることがないという無力感でいっぱいになっていた。
「授業は?もう始まってるんでしょ?」
「なんと、大学生の夏休みは2ヶ月もあるのです。つまり10月からが2学期」
「えー!全然勉強してないじゃん。そんなんでお医者さんになれるの?私、将来マーくんに診てもらうの嫌だな」
「おっと、お言葉を返すようですが、昼からは補講という名ばかりの講義が、びっしり詰まっております」
「なるほど」
くすくすと笑う二人の声に、隣のベッドの橋本千鶴が声をかけてきた。
「楽しそうだこと。こっちのおばあちゃんも仲間に入れてちょうだいな。それともお邪魔かしら」
「もう、そんなこと」
夏海が笑いながら、しきりのカーテンを開け放つ。
「マーくん、こちら橋本さん。楽しいお話をたくさんしてくださるのよ」
夏海はこの老婦人が児玉綾乃の祖母であることはまだ言っていなかった。
信太郎の元彼女の話をすれば、きっと雅樹はますます自分に気を遣うようになる。
「まぁ、あなたが夏海ちゃんの恋のお相手?」
そんな何気ない言葉に彼の笑顔が凍り付く。
「違いますって。幼なじみですよ。W大の医学部に通ってるんです、ね?マーくん」
「ええ、まぁ」


