ビールを新たに開けながら、克彦はしわくちゃの顔のまま鼻で笑った。
「はんっ、希望だって?どうやって、そんなものを持てっていうんだ」
夏海に言えるはずもない。
おまえの命はもってあと半年だそうだ、なんて…
ただでさえ信太郎のことで、娘の心は弱っている。
それなのにその辛さを今、一人で必死に乗り越えようとしている。
どうしてだろう、どうして娘でなければならないのか。
誰よりも寂しい思いをしてきた。
誰よりも愛を求めて生きてきた。
やっとその愛を手に入れたところで、それは指の間をすりぬける砂となった。
風に吹かれて、行く当てもなく散り散りになった。
今はその命までもが風前の灯火だというのか。
克彦はビールを流し込む。
明け方近くになってようやく、彼は畳の上でうずくまるように浅い眠りについた。
「おはよう、佐々倉さん。体調はどう?」
斉藤医師がにこやかに枕元に立つ。
回診の時間。
若い何人もの医師がしきりに斉藤の言葉のメモをとるも、夏海の顔なんて見ようともしない。
「胃潰瘍が化膿しててね。それの治療を進めていくから」
不安そうに見上げる彼女に、斉藤は「すぐよくなるよ」と笑った。
「本当に胃潰瘍ですか?」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく…お父さんの様子が変だから」
「それはそうだよ。仕事が終わってから毎日来てくれるんだろ?そりゃあ疲れるよ。だから早く良くならなくっちゃね」
ポン、と彼は大きな手を夏海の頭に乗せた。
みんな嘘つきだと、彼女は思う。
だったら、とことん自分だって騙されるふりをするのがいいのかもしれない。
それで父が救われるのなら…。


