克彦は一人きりになった家で、何本目かのビールをあおった。
いくら飲んでも酔わない、眠れない、忘れられない。
ふと目をやった仏壇に、握りつぶした空き缶を投げつけた。
「なんでだよ!なんであいつまで…。守ってくれって頼んだだろ!」
小さな嗚咽が次第に大きくなり、いつしか家中に響き渡った。
雅樹と別れたあの後、克彦はひとりカンファレンスルームに通された。
カルテに目を通した斉藤医師が向き直る。
「スキルス性胃ガン、ステージ4です」
彼が何を言っているのかすぐには飲み込めなかった。
「あの…」
どもる克彦に斉藤医師はもう一度ゆっくりと病名を告げた。
「娘さんは、夏海さんはスキルス性胃ガンです。それもかなり進行しています」
今にも床が抜けて奈落の底に突き落とされるような感覚に、克彦は吐き気を覚えた。
「大丈夫ですか」
記録を録っていた看護師が声をかける。
「先生、治るんですよね」
斉藤は眉間に皺を寄せたまま、目を閉じた。
「先生っ」
悲痛な声をあげて克彦は立ち上がった。
「スキルス性胃がんは比較的若い女性に多いと言われています。進行が早く、初期症状もふつうの胃もたれかと思われがちで、早期に発見することが困難な病気です。かなり進行してから初めてわかる、そういうケースが多いのも事実です」
淡々と目の前の医師は語る。
「治るんですよね…ね、先生?ねぇ…」
「佐々倉さん」
「早く手術してください!明日にでも!早く!」
「手術は…」
斉藤と視線がぶつかる。
「手術はできません」


