「愛してる」、その続きを君に



橋本千鶴の孫と夏海は、病棟の片隅にある談話室の小さなテーブルをはさんで無言で向かい合っていた。


しばらくすると、沈黙に耐えかねたのか、「あの…天宮くんのことなんですけど…」と相手が切り出してきた。


相手、とはあの児玉綾乃だった。


長いストレートヘアをばっさり切り、栗色に染めた波打つセミロングの髪が、ますます彼女を人形のように見せる。


「ごめんなさい、でも…あの…」


夏海に遠慮してか、しどろもどろに綾乃は謝る。


「新聞で事件のことを知って…その…」


夏海は「そんなに私に気を遣わないで」とくすりと笑った。


信太郎をめぐって、どれほど心の葛藤があっただろう。


目の前の綾乃に嫉妬したこともある。


あれはもう何年前のことになるのだろう。


「児玉さん、まさかこんな形で会えるとは思ってもみなかったね。私は今こんなんになっちゃって」


おどけてパジャマをつまんでみせる。


「どこか悪いんですか」


遠慮がちにそう訊ねた後、綾乃はごめんなさい、ともう一度謝った。


「いいの。どっかが悪いのは確かなんだけど、まだ検査結果が出てなくて。たぶん今日あたりわかるんじゃないかな…」


「そう、ですか」


「…ね、信ちゃんのことが聞きたいんでしょ?」


夏海は微笑みながら、単刀直入に切り出した。


信ちゃん、そう言った夏海のことを複雑な顔つきで数秒見つめた後、綾乃は「ええ」と力強く頷いた。


「私の両親がとても彼のことを心配していて…天宮くんがああいうことになったのは何か理由があるはずだからって。でも詳しいことを知ろうにもなかなか…」


綾乃にとっては、元恋人がこんなことになってしまったのだ、気にならないはずはない。


それにしても、彼女の両親に信太郎は会っていたのだと思うと、彼女とのつきあいの深さに今さらながら、小さな胸のうずきを夏海は感じた。


しかし、すぐにそれを打ち消す。


「児玉さん自身も聞きたいんじゃないの?信ちゃんに何があったか…」


「…ええ、知りたい」