「弁護士の先生を通じて、法廷には情状酌量を求める証人は一切呼ばないでくれって…嘆願書も必要ないって…」
「…え?」微かに開いた夏海の唇が小さく震えた。
「それに正当防衛を主張する気はないそうだよ」
「あの…よくわかんない。よくわかんないんだけど!」
夏海が雅樹の肩を揺さぶりながら、顔を歪める。
「検察は過失致死の適応を求めてくるだろうって…」
「何それ?正当防衛じゃないの?信ちゃんだってその男の人に首を絞められたんでしょ?だったら正当防衛じゃない!」
「首を絞められた時に相手を突いたんじゃないみたいなんだ。恵麻お姉ちゃんに向かって行くのを止めようとして、ああなったって。正当防衛じゃなくて、過剰防衛だとみなされるらしいよ」
「そんな…」
「家族の面会すら、信太郎は断ってる」
どうして…夏海の唇がそう動いたが、声には到底ならなかったようだ。
「あいつは裁判で何も反論する気はないんだよ」
「じゃあ、どうなるの…」
「刑務所に入ることになる。聞いたところによると、過失致死の場合だと3年以上…」
雅樹がそう言い終わらないうちに、夏海は立ち上がった。
一瞬ふらりとよろけるも、差し伸べた雅樹の手を振り払うように歩き出す。
「なっちゃん、部屋に帰るの?」
「…信ちゃんに会う」
「何言ってるんだよ。無理だって」
「私が直接会って、裁判でちゃんと闘うようにって説得する」
「あいつは誰にも会わない!」
雅樹は行く手を阻むように、彼女の前に立ちはだかった。
頬の肉は落ち、弱々しい体つきなのに目だけは執念という名の光が宿っている。
「正当防衛が認められれば、信ちゃんは罪に問われないんでしょ!信ちゃんは悪くない、恵麻お姉ちゃんを助けようとしただけ!」
「でも、現に被害者は亡くなってるんだ」
「被害者、被害者って言わないでよ!!」
「なっちゃ…」
「信ちゃんだって被害者でしょ!死んだ人がストーカーしなかったら、こんなことにならなかった!それに殺されてたのは信ちゃんだったかもしれないじゃない!」


