「愛してる」、その続きを君に


病院というところは、思った以上に暇だ。


一通り必要な検査が終わってしまえば、することなどない。


夏海は大学病院の4人部屋の窓際のベッドの上で、そう思った。


豊浜からここに移る際に、彼女は父にこう訊いた。


「どうして大学病院に行くの?そんなに私悪いの?」


その問いに微かな笑みを浮かべながら「念のためだ」と克彦は言ったが、急に老け込んだその顔を目の当たりにして、夏海は自分の身体がとてつもない病に侵されているのだと確信したのだった。


上半身だけを起こしたまま窓の外を望むと、まだ気温は30度を超える残暑であるにもかかわらず、空に浮かぶ雲はもう秋の様相を呈している。


豊浜の役場のみんなはどうしているのだろう。


力仕事をする人がいなくて、さぞ困っているに違いない。


課長も冗談を言う相手がいなくて、きっと寂しがってるだろう。


そんなことばかり考えていた。


というより、こうやっていないと身がもたないのだ。


気を抜けば、つい「彼」のことを想ってしまう。


この病院では、気を紛らわせることが何もないのだ。


風の音も、名残惜しそうに鳴く蝉の声も、外を走る車の喧噪も遮断されている。


音といえば、同室患者の咳、モニター音、ナースコール、病棟スタッフの足音など数えるくらいしかない。


しかし、そんな中でひとつ気付いたことがある。


薄いピンクのカーテンでしきられた隣のベッドの「住人」は、どうやら年配の女性らしいということ。


ここに来て3日目の夏海は、お互い顔を合わすこともなければ話すこともなかったが、時折漏れ聞こえる看護師との会話から、おそらく亡くなった自分の祖母と同じくらいの年代だろうと想像した。


武子が生きていたら、こんな自分のそばに四六時中ついて、その身を削るほど心配させただろうな、と思う。


「なっちゃん、雅樹だけど。カーテン開けてもいい?」


ふいに柔らかな声が聞こえた。