「くそっ…」
こんな気持ちをきっと彼らにはわかるはずもない。
だから何も言ってくれないのだ。
ハタチとは名ばかりのコドモだと思っているはずだ。
どうして話してしまったのだろう、そんな後悔が突如彼を襲う。
「大学にも行っていない、仕事にも就いていない!中途半端な身分のくせに、そんなやつが一人の女を幸せにするなんて言う資格があるのかよって、あんたたちだってそう思ってんだろ!」
腹立たしさのあまり、彼はもう一度思いっきり床を蹴った。
「くそ!!」
しん、とする室内。
空調の音がやけに大きく聞こえた。
信太郎の乱れた息づかいが徐々に落ち着くのを見計らって口を開いたのは、若い加瀬だった。
「マセてるだとか、資格がどうとか、そんなこと俺たちは思っていないよ」
彼は信太郎の横で膝を折ると、「思うわけないじゃないか」とまるで子どもを諭すかのように下から顔をのぞきこんだ。
「俺だって君くらいの年の頃には、命をかけるくらい好きに想う人がいた。一生涯俺が守る、そう決めた女性がいたよ。だからおかしいことなんてない。むしろそういう人がいる、それはすばらしいことじゃないのかな」
優しく流れるような口調の若い刑事の顔を、信太郎は驚いたように見た。
「あの夜、署の前で彼女、泣きながら言ってたよ。ここで君を待つんだって。天宮の名前を何度も何度も呼んでた。どれほど君のことを大切に想っているか、俺にも伝わってきたよ。きっと彼女なら待っててくれる。な?そう思わないか?」
どこかしら寂しそうに微笑む彼の瞳が、信太郎の心を揺さぶった。
みるみるうちに目の縁が赤くなったかと思うと、涙が一筋、頬を伝う。
「罪を償って、一日でも早く彼女のところに戻ってやるんだ」
そんな加瀬の言葉に、膝に置いた拳が白くなるほど信太郎はその手を強く握りしめ、何度も頷いた。
「俺は残りの全ての人生、この罪を背負って生きていきます…」
荒れて色を失った唇がそう動いた。
「本当に申し訳ありませんでした…!」
肩にそっと置かれた加瀬刑事の手が、とてもとても温かかった。


