連日刑事の取り調べが続いた。
テレビドラマで見るような、拷問のような取り調べ、あれは嘘だ。
「カツ丼でも食うか?」そんなドラマの決まり文句だって、実際にはない。
桜井刑事がおかしそうに「ここで出前とったら、天宮、おまえが払うねんで。わしらの金とちゃうで」と言った。
桜井刑事と、加瀬刑事。
彼らはいつも穏やかで「疲れたんか?休憩しよか?」と気遣ってくれる。
覚えている限りのことを、彼は包み隠さず話した。
それらに嘘はない。
「明日、検察に君の身柄を移すことになったよ。次は裁判だ」
落ち着いた口調で、若い加瀬刑事は言った。
天宮信太郎は、視線をグレーのテーブルに落としたまま頷いた。
「…お世話になりました」
何十時間も見続けてきたそのテーブル。
どこにどんな傷があるか、もしそう訊かれても正確に答える自信が彼にはあった。
それほどこのテーブルを見続けていた。
「なぁ、天宮」
桜井が優しい声で名を呼び、座り直した。
「おまえは今までわしらの質問にもちゃあんと答えてきた。被害者やその遺族に対する謝罪の気持ちもようわかった。せやけど…」
ギィと椅子がきしむ。
「せやけど、おまえは淡々としてるなぁ。お姉さんを侮辱されて悔しかったやろ?それでもおまえはその時の状況を眉をぴくりともさせんと、冷静に話した」
「……」
うつむいたまま身じろぎもしない信太郎の耳に、再び桜井の椅子のきしむ音が届く。
身を乗り出してきたのだろう、声がずっと近くで聞こえる。
「なんでもええ、調書には書かへんから、思ったことを言うてみぃ」
「…思ったこと?」


